相続と株式 - 未上場株式の評価方法、相続税の納税猶予制度

弁護士 関口 久美子 (せきぐち くみこ)
弁護士法人宇都宮東法律事務所 代表社員(パートナー弁護士)
所属 / 栃木県弁護士会 (登録番号43125)
保有資格 / 弁護士

未上場株式相続の基本概念

未上場株式の相続は、事業承継における重要な課題の一つです。
上場企業の株式と異なり、市場価格が存在しないため、その評価方法が複雑であり、また高額な相続税負担が事業継続の妨げとなる可能性があります。

このため、税制面では事業承継を支援するための各種制度が整備されており、特に平成30年度税制改正で創設された「事業承継税制の特例措置」により、納税猶予制度が大幅に拡充されています。

未上場株式の相続では、適切な株式評価と納税猶予制度の活用が、円滑な事業承継の鍵となります。

未上場株式の評価方法

未上場株式の評価方法は、会社の規模や業種によって異なります。

1. 原則的評価方式

1. 類似業種比準方式

  • 上場企業の株価を参考に評価
  • 1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額を比較
  • 規模や業種の類似性を考慮

2. 純資産価額方式

  • 会社の資産から負債を控除して評価
  • 土地や建物は時価で評価
  • 退職給付債務なども考慮

3. 折衷方式

  • 上記2方式を組み合わせて評価
  • 会社の実態に応じて配分割合を決定

2. 特例的評価方式

小規模な会社については、以下の方式が適用されます。

1. 配当還元方式

  • 直近の配当実績をもとに評価
  • 特定の同族株主以外の株主が保有する株式に適用

2. 特例的評価方式

  • 原則的評価方式を簡略化
  • 一定の要件を満たす場合に適用可能

相続税の納税猶予制度

1. 制度の概要

事業承継における納税猶予制度には、以下の2種類があります。

1. 一般措置

  • 納税猶予割合:総額の2/3
  • 適用期限:なし
  • 雇用確保要件:5年間で平均8割維持

2. 特例措置(平成30年度改正)

  • 納税猶予割合:総額の全額
  • 適用期限:令和9年3月31日まで
  • 雇用確保要件:5年間で平均8割維持

2. 適用要件

納税猶予制度の主な適用要件は以下の通りです。

1. 会社要件

  • 中小企業基本法上の中小企業であること
  • 非上場会社であること
  • 資産管理会社に該当しないこと

2. 後継者要件

  • 代表者であること
  • 総議決権数の50%超を保有すること
  • 特定同族関係者と合わせて総議決権数の80%以上を保有すること

3. 事業継続要件

  • 5年間の事業継続
  • 雇用の維持
  • 代表者の継続

納税猶予制度の実務的な留意点

1. 事前の準備

1. 認定経営革新等支援機関の指導・助言

  • 事業承継計画の策定
  • 経営改善の実施
  • 必要書類の作成支援

2. 都道府県知事の認定

  • 特例承継計画の提出
  • 認定申請手続きの実施
  • 要件充足の確認

2. 承継後の対応

1. 継続届出書の提出

  • 3年間は毎年提出
  • その後は3年ごとに提出

2. 雇用維持の確認

  • 従業員数の把握
  • 雇用確保要件の充足確認

3. 事業継続状況の報告

  • 資産管理会社への該当有無
  • 議決権保有割合の維持確認

最近の動向と課題

1. 制度の拡充

1. 特例措置の延長

  • 適用期限の延長検討
  • 要件の緩和の可能性

2. 新たな支援策

  • 経営環境の変化への対応
  • デジタル化への投資支援

2. 実務上の課題

1. 株式評価の複雑性

  • 評価方法の選択
  • 専門家との連携の必要性

2. 後継者不在問題

  • M&Aの活用検討
  • 社外からの人材登用

まとめ

未上場株式の相続対策では、以下の点が重要となります。

  • 早期からの事業承継計画の策定
  • 適切な株式評価方法の選択
  • 納税猶予制度の活用検討
  • 専門家との連携
  • 継続的なモニタリングと対応

事業の円滑な承継のためには、経営面での準備と税務面での対策を並行して進めることが不可欠です。

補足:よくある質問(FAQ)

  • 納税猶予制度を適用した後、経営環境の変化で雇用維持が困難になった場合はどうなりますか?

    新型コロナウイルス感染症の影響など、特例的な事情がある場合は、要件が緩和される可能性があります。早めに税務署や認定経営革新等支援機関に相談することをお勧めします。

  • 複数の評価方法が適用可能な場合、どのように選択すべきですか?

    会社の規模、業種、財務状況などを総合的に勘案して選択する必要があります。税理士等の専門家に相談し、適切な評価方法を選定することが重要です。

  • 納税猶予制度の適用後、会社を売却することは可能ですか?

    原則として納税猶予が打ち切られ、猶予されていた税額を納付する必要があります。ただし、一定の要件を満たす場合は、納税猶予を継続できる場合もあります。

  • 特例措置の適用を受けるための事前準備はいつから始めるべきですか?

    特例承継計画の提出期限や承継時期を考慮し、少なくとも2-3年前から準備を開始することをお勧めします。特に、後継者の育成や経営体制の整備には相当の時間を要します。

  • 納税猶予制度と事業承継税制の違いは何ですか?

    納税猶予制度は事業承継税制の一部です。事業承継税制には、納税猶予制度の他にも、経営承継円滑化法による支援措置や金融支援なども含まれています。

未上場株式の相続と事業承継は複雑な問題を含んでおり、個々の状況に応じて最適な対策が異なります。
本記事の内容はあくまでも一般的な情報提供であり、具体的な対策を検討する際は、税理士、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

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