生前贈与分は相続分の前渡しになるのか―特別受益の基礎知識と計算方法―
被相続人(亡くなった人)が亡くなる(相続発生)前に特定の相続人が子供の教育資金などで多額の生前贈与を受けていた場合、相続分の計算に影響があるのでしょうか。
今回の記事では相続分の計算に影響がある生前贈与などの「特別受益」とその計算方法について、わかりやすく解説していきます。
当事務所では相続問題の経験が豊富な男女4人の弁護士が、お互い協力しあってチームを組んで問題を解決します。
相続問題を多数解決してきた当事務所には、特別受益に関係する経験や裁判例のノウハウが豊富です。
他の相続人に対する生前贈与が気になる場合、どうぞお気軽に私ども相続の専門家にご相談ください。
特別受益と特別受益の持ち戻し
そもそも特別受益とは何でしょうか。
民法907条に規定されています。
特別受益とは
特別受益とは相続が発生する前(被相続人が亡くなる前)に相続人が子供の教育費などで特別の支援を受けていたことや、相続発生後の遺贈(遺言による贈与)のことをいいます。
特別受益の持ち戻しとは
一部の相続人に特別受益があるのにそれらを考慮しないで相続分を計算すると、特別受益を受けていない他の相続人にとっては不公平となります。
そこで相続人に特別受益がある場合は、相続の前渡しを受けたと考えて、相続を計算する際に、その分を考慮した上で実際の相続分を計算します。
このことを「特別受益の持ち戻し」といいます。
遺産相続をする際には、相続開始時の遺産に「持ち戻しの対象とした特別受益を受けた額」を加え、その合計を相続分として分割することになります。
「持ち戻し」とありますが、実際に特別受益を受けた金額を被相続人名義に戻して相続財産とするのではありません。
相続分の計算上で相続財産に加えるということです。
特別受益の持ち戻しの免除
被相続人(亡くなった人)が遺言などで持ち戻しを免除する意思表示をしている場合は、上記の「特別受益の持ち戻し」はしなくてよくなります。
この場合では単純に相続開始時の遺産を相続分で分割することになります。
しかしこの制度は一般にほとんど知られておらず、活用されていませんでした。
特別受益の持ち戻し免除の意思表示の推定
そこで、平成30年7月の法改正で、配偶者については下記の条件を満たせば該当する特別受益について「持ち戻し免除の意思表示があった」と推定されるようになりました。
- 20年以上の婚姻期間
- 配偶者に対する居住用不動産の遺贈もしくは贈与
この場合は「被相続人の持ち戻し免除の意思表示があった」と推定され、「配偶者に遺贈もしくは贈与された居住用不動産」は遺産分割の対象とはなりません。
特別受益の対象となるもの
特別受益とされるものは、以下の通りです。
遺贈
「遺贈」とは遺言による贈与のことです。
遺贈された財産は動産・不動産ともすべて特別受益の対象となります。
婚姻のための贈与
「婚姻のための贈与」とは、被相続人がその子供などのために用立てた結婚のための持参金や嫁入り道具といったものをさします。
これも特別受益の対象となります。
ただし金額が少額で被相続人の資産・生活状況から扶養の一部と認められる程度であれば、特別受益の対象とはなりません。
・結納金や結婚式の費用について
一方、結納金や結婚式の費用については、以前は多くの場合で特別受益の対象とはされませんでした。
結納金や結婚式の費用は、通常親が出すものとされていたためです。
しかし以下の理由で特別受益になる場合もあるので注意が必要です。
- 一部の相続人のみが多額の結納金や結婚式の費用を出してもらっていたことが特別受益の対象となったケース
- 結納金や結婚式の費用は本人が負担すべきであるとして、結納金等が贈与と評価され特別受益の対象となったケース
養子縁組のための贈与
具体的な血縁関係とは無関係に親子関係を発生させることが「養子縁組」です。
この養子縁組を行う際に実親(血縁上の親)が子に持参金を贈与すれば、それは特別受益の対象となります。
生計の資本としての贈与
「生計の資本としての贈与」とされるものの、主なものは以下の通りです。
- 子供が独立する際の居住用不動産の贈与や購入資金の贈与
- 義務教育の範囲を超える大学などの高等教育のための費用
(入学金や授業料、留学費用や渡航費用の贈与) - 事業の開業資金
- その他扶養の範囲を超える金銭的な援助
- 相続人間に特段の不公平が生じる生命保険金
特別受益の計算方法
特別受益を受けた人、受けなかった人の相続分の計算方法は以下の通りです。
このように計算された相続分のことを「具体的相続分」といいます。
特別受益とされた財産は、相続開始時を基準として評価します。
- 特別受益を受けた人の具体的相続分の計算方法
具体的相続分=(相続財産+特別受益額)×法定相続分-特別受益額 - 特別受益を受けていない人の具体的相続分の計算方法
具体的相続分=(相続財産+特別受益額)×法定相続分
【具体例】
- 相続財産が1200万円
- 相続人は配偶者と長男・次男・長女の計4人
①特別受益がない場合
法定相続割合にしたがった場合は、
配偶者:1200万円(相続財産の総額)×2分の1(配偶者の相続割合)=600万円
子:1200万円(相続財産の総額)×2分の1(子の相続割合)÷3(子の人数)
=一人当たり200万円
②特別受益があった場合
以下の特別受益があった場合
- 長男に不動産購入資金200万円
- 長女に嫁入り道具100万円
まず、特別受益分合計300万円を持ち戻した1500万円を相続財産と考えます。
その上で計算すると、以下の通りになります。
- 配偶者:1500万円×2分の1=750万円
- 長男:1500万円×6分の1-200万円(特別受益分)=50万円
- 次男:1500万円×6分の1=250万円
- 長女:1500万円×6分の1-100万円(特別受益分)=150万円
まとめ
特別受益があるかないかで、遺産の分け方は大きく変わります。
特別受益として認められるかどうかの判断には、高度な専門知識と経験が必要です。
相続問題を数多く解決してきた当事務所へのご相談をお勧めします。
当事務所は相続問題に詳しい男女合計4人の弁護士が、チームとなって相続問題に取り組みます。
特別受益の問題は個別性が強く、問題解決の知識の蓄積や経験の有無が重要です。
私どもは相続問題での豊富な経験をもとに、あなたの相続問題を解決します。
気軽に相談していただけるよう、夜9時まで電話を受け付けています。
またわかりやすく費用を設定しており、支払い方法も個々の状況に合わせ柔軟に対応します。
初回相談は60分まで無料ですので、どうぞ気軽に当事務所までご相談ください。