相続をさせたくない推定相続人がいる場合の相続廃除とは

弁護士 関口 久美子 (せきぐち くみこ)
弁護士法人宇都宮東法律事務所 代表社員(パートナー弁護士)
所属 / 栃木県弁護士会 (登録番号43125)
保有資格 / 弁護士

民法は、被相続人の一定の親族である配偶者、子、親、兄弟姉妹などに法定相続分を認めています。

しかしながら、法定相続人ではあるものの、親である被相続人を日常的に虐待している子供などに財産を継がせたくないというような事情があることもあります。こうした場合に、相続人から相続権をはく奪する相続人の廃除という制度を利用することが考えられます。

この記事では、相続廃除についてご説明します。

相続廃除とは

相続廃除とは、民法上相続権を持っている人である推定相続人について、被相続人が家庭裁判所に申し立てを行うことによって、相続をさせないことを可能とする制度です。

相続権を奪うということは、推定被相続人に大きな影響を与えますので、恣意的に誰でも廃除ができるわけではなく、一定の条件を満たしたときに、法律の手続きにそって行った場合にのみ認められます。

相続を廃除できる場合

廃除の理由

相続人の廃除については、民法892条に以下のように定められています。

「遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。」

つまり、推定相続人が、

  • 被相続人に対して虐待をしたとき
  • 被相続人に重大な侮辱を加えたとき
  • その他の著しい非行があったとき

には、被相続人が家庭裁判所に対し相続廃除を申し立てることができ、家庭裁判所がそれを認めたときは、相続廃除ができます。

具体的には、推定相続人が被相続人を肉体的な暴行を加えたり、暴言を日常継続的に吐くなどをしていたりした場合、虐待によって相続廃除がされることが考えられます。

著しい非行とは、例えば、推定相続人が被相続人の持ち物を勝手に処分したり、大きな借金を抱えて被相続人に弁済させたりするような例があります。892条の相続廃除の要件は、推定相続人に与える不利益を考慮して、家庭裁判所により厳格に判断されます。

そのため、単に気が合わないというような理由ではなく、客観的に虐待や相続廃除に値するような侮辱、非行があることを具体的に裁判所に申し立てていく必要があります。

廃除を請求する主体と客体

相続廃除の申し立てをすることができる人は、被相続人となる人本人に限られます。

また、廃除の対象となる相手方は、推定相続人のうち遺留分を有する人のみとなります。遺留分がなければ、遺言をしてその人に相続させない旨を定めておけば相続から排除することは可能なので、わざわざ相続廃除の対象にする必要がないためです。

なお、遺留分とは、民法1042条により認められた相続人の権利で、遺言などにより法定相続分以下の財産しか残してもらえなかったり財産を残してもらえなかったりした場合にも、法律で定める最低限の割合の遺産額を受け取ることができる権利をいいます。法定相続人であっても、被相続人の兄弟姉妹には遺留分はありません。

そのため、廃除の対象となりうる推定相続人は、配偶者、子供や孫など直系卑属、親や祖父母など直系尊属となります。相続廃除が認められた場合、廃除された人は遺留分を含め、相続権を主張することはできなくなります。

相続廃除をされても代襲相続は可能

相続廃除は、特定の推定相続人の個別的な事情から、相続権を失わせる制度ですので、相続廃除された推定相続人に子どもや孫がいる場合、代襲相続といってその子どもや孫が代わりに相続をすることとなります。

例えば、息子である推定相続人は相続人を虐待していたとしても、その子供である孫はまだ子供で、何も虐待に関与していないとします。そういった場合、孫には責任はないですので、孫の代襲相続権までは奪われません。相続廃除をしたい場合は、被相続人が家庭裁判所に申し立てをし、審判を受ける必要があります。

相続廃除の手続き

相続廃除は、被相続人が生前に行う生前廃除をするか、遺言を遺して遺言執行者に相続廃除を行ってもらうようにする遺言廃除をするというやり方があります。

遺言廃除の申し立て方法としては、被相続人の住所を管轄する家庭裁判所に対して、推定相続人廃除の審判申立書を提出し、審判をしてもらいます。

提出すべき書類とは、下記等になります。

  • 裁判所が指定する書式の相続廃除申立書
  • 生前の場合:(被相続人)の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 遺言による場合:遺言者の死亡が記載された戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本(全部事項証明書)
  • 廃除を求める推定相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 遺言による場合:遺言書写し又は遺言書の検認調書謄本の写し
  • 遺言による場合で家庭裁判所の審判により選任された遺言執行者が申し立てる場合:遺言執行者選任の審判書謄本

また、手数料として推定相続人1名につき800円分の収入印紙等をおさめます。その他所定の郵券の納付が必要になります。家庭裁判所の審判が確定すると、審判書の謄本と確定証明書が被相続人に交付されます。

被相続人はその後10日以内に、被相続人の戸籍がある市区町村の役所に、これらの書類と市町村が指定する推定相続人廃除届を提出します。届出後、推定相続人の戸籍に、相続廃除がなされた旨の付記がなされ、これで相続廃除手続きが完了することとなります。

相続廃除は取消可能

生前に相続廃除をした場合であっても、廃除された人が改心をして、被相続人との関係が良くなった場合などに、相続廃除を取り消したいこともあるでしょう。

この場合、家庭裁判所に対し、廃除の審判の取消しの審判を申し立てることによって、取消しをすることができます。相続廃除をするときと同様、被相続人の生前に取消を行うこともできますし、遺言書にその旨を遺しておき、遺言執行者に死後に取消をしてもらうこともできます。

最後に

いかがでしたでしょうか。

虐待や非行を行う推定相続人に対して相続をさせたくない場合にとりうる手段である相続人の廃除についてご説明しました。ご参考になれば幸いです。

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