遺留分の放棄とは?相続の放棄との違いを踏まえて解説
兄弟姉妹を除く法定相続人には、民法上最低限の遺産取得割合である遺留分が認められていますが、この遺留分を請求するかどうかは権利者の意思にゆだねられており、放棄することもできます。
それでは、遺留分の放棄とはどのように行えばよいのでしょうか。同じく遺産を受け取る権利の放棄である相続の放棄との違いなどを踏まえてご説明します。
遺留分の放棄とは
遺留分とは
遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人のために認められた、民法上取得することが保障された遺産の割合をいいます。
被相続人が遺留分を侵害した形で遺言を残したり、贈与や遺贈をしたりした場合であっても、それは法律上当然に無効となるわけではありません。
しかし、遺留分権利者が遺留分侵害額請求を行った場合には、遺留分を侵害する限度で効力を失うこととなります。遺留分侵害額請求とは、遺留分権利者が遺留分を侵害して財産を受け取った人に対して、侵害された財産の返還を請求することです。
例をあげると、被相続人が「愛人に全財産を譲る」という遺言を遺したとしても、配偶者が相続人として存命している場合、配偶者は自分の法定相続分についての遺留分割合1/2を乗じた額については、愛人に対して遺産を返還することを求めることができます。
遺留分放棄とは
遺留分侵害額請求が行われると、法的な紛争に発展することも少なくありません。
例えば、遺産に不動産が含まれている場合に、その不動産の金銭的価値をどのように評価して遺留分を返還するかなどをめぐって、遺産を相続した人と遺留分権利者の間でトラブルになることがあります。
遺留分侵害額請求による相続人間のトラブルを避けるための手段として、遺留分権利者に遺留分を放棄してもらうという方法があります。遺留分の権利主張をするかどうかは遺留分の権利者の判断となるため、放棄をすることも認められています。
遺留分権利者や状況によって、被相続人の意思を尊重してあえて権利主張をしないという場合もありますし、不公平な相続内容に納得がいかず遺留分の権利主張をする場合もあります。
遺留分放棄の方法
遺留分の放棄は、被相続人が生きている間にも、亡くなって相続が発生してからでもすることができます。
まず、被相続人の生前にあらかじめ遺留分を放棄するためには、遺留分権利者本人が、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所で申し立てをして、遺留分放棄の許可を受けることが必要になります(民法1049条)。被相続人となる人が存命中に遺留分権利者に圧力をかけて強引に遺留分の放棄を迫るなどの可能性もあるので、遺留分権利者の意思を確認するために家庭裁判所が介入した手続きとなっています。
遺留分放棄の申し立てがなされると、家庭裁判所で裁判官と申立人が審問と呼ばれる面談を行い、遺留分放棄の理由の確認や遺留分放棄の結果について申立人がきちんと理解しているかどうかなどが確認されます。
この審問の結果により、遺留分放棄が許可されるかどうか決まります。遺留分放棄が認められるためには、本人の意思による遺留分放棄であり他人から強制されたものではないこと、遺留分放棄をする合理的な理由があることの2つが必要であるとされています。
合理的な理由として考慮される事情の一つとして、遺留分権利者が代償となる財産を譲り受けている等(例えば、子である遺留分権利者が、親である財産を残す人から自宅を購入してもらっている等)があります。
なお、遺留分は放棄するというような念書を当人同士で残すようなことをしておいても法的効力は認められませんので、必ず裁判所で手続きをしましょう。
遺留分の放棄後は、放棄の取消をすることは簡単にはできません。遺留分許可審判後に、申立時の事情が変化して、客観的に遺留分放棄の状態を維持することが不合理となった場合に、裁判所での職権取消を求めるということとなります。
被相続人が亡くなった後に遺留分を放棄する方法はもっと簡便で、遺留分権利者が、遺留分を侵害して多く遺産をもらった人に対して、遺留分を請求しない旨の意思表示をすれば足ります。
また、遺留分侵害額請求は、遺留分権利者が、相続開始と遺留分を侵害する遺言・贈与を知ってから1年以内に行わない場合、請求する権利が自動的に消滅します。
相続放棄との違い
言葉はよく似ているのですが、遺留分放棄と相続放棄は異なる概念です。
相続放棄は、法定相続人が、その相続人としての地位をすべて放棄することをいいます。相続放棄の効果として、放棄した人ははじめから相続人ではなかったものとみなされ、+の財産である資産も-の財産である負債も一切相続しないこととなります。
相続放棄が利用される場面としては、被相続人が多くの借金を残しており、+の財産よりも-の財産が多くなってしまっている場合があります。
一方、遺留分放棄は遺留分のみを放棄するので、相続人としての地位は失いません。
例えば、遺言によって不動産などメインとなる遺産を一人のみが相続したとしても、遺留分を放棄した人は遺言通りに残りの遺産を相続することができますし、借金も相続します。遺言書に書かれていない財産が発見された場合は、その財産の分配について遺産分割協議にも参加することが可能です。
相続放棄は、遺留分放棄とは異なり、被相続人が存命中はすることができません。
いわゆる熟慮期間とよばれる期間である相続開始と自分が相続人であることを知ってから3カ月以内に、家庭裁判所に対して相続放棄の申述をすることによって行うことができます。
最後に
遺留分権利者が遺留分放棄をしておくことにより、相続発生後に遺留分をめぐっての相続トラブルが発生するリスクが少なくなります。
法定相続分どおりの相続以外を考えており、自分の死後の相続トラブルが心配な方は、遺留分放棄という制度について家族と話し合っておくことも一つの対策となります。
ただし、遺留分放棄は、遺留分権利者が自らの意思で熟慮したうえで放棄をする必要があり強制してはならないこと、遺産を残す人から遺留分権利者への相当の代償の用意などは必要になる点には注意しておきましょう。