遺産が不動産しかない場合の遺留分侵害額請求
遺言や生前贈与、遺贈などにより遺留分を侵害されてしまった場合、遺留分侵害額請求をすることにより遺留分を取り戻すことができます。
それでは、遺産が不動産しかない場合、遺留分侵害額請求はできるのでしょうか。
例えば、遺産が自宅以外にはなく、長男が自宅を単独相続した場合に、次男が遺留分侵害額請求をするとどうなるのでしょうか。
この記事では遺産が不動産しかない場合の遺留分侵害額請求についてご説明します。
遺留分侵害額請求とは
概要
遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に認められた、民法上保障された最低限の遺産の取り分のことをいいます。
遺留分制度は、被相続人の相続についての意思を尊重する一方、被相続人の近親者である一定の範囲の法定相続人の相続への期待を保護し、遺産が相続できなかったことによって、生活基盤がおびやかされないように定められた制度です。
遺留分は、遺言や、生前贈与、遺贈によっても侵害することができないので、遺留分権利者は遺留分侵害額請求をすることにより、遺留分を取り戻すことができます。
具体例をあげると、法定相続人として2人の子供がいた場合、遺言で全財産を一人に相続させるとされていたとしても、もう一人の法的相続人としては、相続財産について、法定相続分である12の遺留分である12である14については遺留分を主張することができます。
法改正の影響
ところで、2019年の民法改正により、不動産が遺産である場合には特に、遺留分制度は大きく変わったといえます。
2019年改正前は、遺留分減殺請求という制度であり、権利者がこの請求をして認められた場合、不動産の名義は「遺留分減殺を原因とする登記」により変更され、請求された人と請求した人の持分共有となっていました。
遺留分減殺請求権は、動産現物による返還請求という点で物権的請求権として位置づけられていました。
改正後は、遺留分減殺請求は遺留分侵害額請求という金銭請求権に変わりました。
つまり、遺留分権利者は現物ではなく遺留分を侵害された額に相当する金額を請求できることとなりました。
なお、改正後の現行法である民法1046条は、「遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。
以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。」と定めています。
遺産が不動産しかない場合の遺留分侵害額請求
遺留分相当額を算定する必要がある
それでは、遺産が不動産しかない場合、遺留分侵害額請求をするとどうなるのでしょうか。
遺留分は法律上認められた最低限の取り分ですので、遺産が不動産のみであったとしても、遺留分を侵害して財産を多く受け取った相続人等は、遺留分侵害額に相当する金銭を支払う必要があります。
不動産の遺留分評価方法は複数ある
不動産の遺留分評価方法は、不動産を相続が発生したときの時価で金銭評価をすることで行います。問題としては、不動産の評価方法は複数あり、どの方法を採用するかによって評価額が変わりうるため、当事者間で協議が必要になります。
具体的には、主な評価方法として、以下の4つの方法があります。
- 固定資産税評価額
- 路線価
- 地価公示価格
- 市場取引価格
実際の不動産取引市場で売買がされうる価格である市場取引価格や2名以上の不動産鑑定士の時価評価による地価公示価格は、課税目的で行政庁が公表している固定資産税評価額や路線価よりも高額となることがあります。
この場合、遺留分侵害額請求者としては市場価格等の請求、請求を受ける人としては固定資産税評価額等を主張することが多いでしょう。折り合いがつかない場合は、中間案として当事者同士で定めた評価額とすることもあります。
調停や審判では基本的に固定資産税評価額を基本としますが、当事者により修正が求められた場合には専門家による鑑定を行うことにより鑑定結果をもとに評価されることがあります(この場合には鑑定費用の予納が必要となり、事案によって裁判所が定めることになりますが、費用として50万円程度かかることがあります)。
なお、遺留分権利者が相手方に請求を行う段階では、具体的な請求額まで特定して行う必要はありません。
遺留分侵害額請求権は、相続開始および遺留分侵害の相手方と事実を知った時から1年間で消滅時効にかかりますので、請求額が特定できていなくても、早期に内容証明により請求の意思表示をしましょう。
遺留分の支払い方
遺留分侵害額として支払う額が決まったら、具体的な支払日や支払い方法についても、遺留分請求者と請求を受けた人との間で定める必要があります。
請求された人が不動産を手元に残しておきたい場合で、遺産以外に金銭その他の自己財産を持っている場合は、自己財産から遺留分相当額を支払うこととなります。
一方、請求された人も特にその不動産を手元に残しておく必要がなかったり、遺産以外に手持ちの財産がなく遺留分を支払う資力がなかったりする場合は、不動産を売却して、売却代金の中から遺留分を支払うこととなります。
不動産は一般的に高額ですので、請求された側としては遺留分侵害額をすぐに金銭で用意できない場合も多いでしょう。遺留分侵害請求者が同意する場合は、支払期日を延ばす、分割払いにより返済するなどの方法も可能です。
また、遺留分を請求された人は、裁判所に対して支払期限の延長を求めることができます。民法1407条5項は、「裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。」と定めて、両当事者の公平をはかっています。
不動産の共有にはリスクがある
遺留分侵害額についての金銭支払いはせずに、代物弁済として不動産を共有にするという方法もありますが、不動産の共有には一般的にはリスクがあるといわれており、おすすめできません。
まず、不動産を処分するためには、共有者全員の同意が必要となります。そのため、共有者の一人が不動産を売却したいとしても、他の共有者の同意が得られなかった場合は、売却することができません。不動産は所有をしているだけで、固定資産税等の税金も発生しますし、建物の場合は物理的な管理も必要となります。
そのため、任意に処分できない不動産を所有すると事後的に問題となる可能性がありえます。
また、共有状態を解消しようという場合に、共有者同士で話が整わない場合に、別途共有物分割訴訟をしなければならないなどのリスクもあります。
最後に
いかがでしたでしょうか。
遺産が不動産しかない場合の遺留分侵害額請求についてご説明しました。ご参考になれば幸いです。