遺留分侵害額請求が無視された場合にとるべき対応方法とは?
遺留分侵害額請求とは、民法上一定の法定相続人に認められている最低限保障されている取り分です。遺留分を侵害された場合、侵害された人は、財産を多くもらっている他の相続人等に対して、遺留分侵害額請求をすることにより、金銭請求をすることができます。
それでは、相手方が遺留分侵害額請求をしても取り合ってくれず、これを無視した場合には、どのように対応すればよいでしょうか。
遺留分侵害額請求とは
民法上、配偶者、子等直系卑属、親等直系尊属、兄弟姉妹は法定相続人として、法定相続割合が定められています。
しかしながら、故人の遺志を尊重するため、遺言や生前贈与、遺贈などにより、法定相続分と異なる形で財産を残すことも可能です。
しかしながら、兄弟姉妹を除く法定相続人には、それぞれ一定の割合で遺留分が認められています。遺留分は、遺言、生前贈与、遺贈等によってもおかすことができない最低限の相続割合です。被相続人と近しい親族である法定相続人の相続への期待や、生活の安定等を図るために設けられた制度です。
遺留分が認められる人は、遺留分を侵害して多く財産を受け取った人に対して、遺留分侵害額請求をすることにより、金銭請求をすることができます。
まずは配達証明つき内容証明郵便を送る
それでは、遺留分侵害額請求をするためには、具体的にはどのようにすればよいでしょうか。法律上定められた形式はないため、まずは口頭で相談ベースにより、相手方に協議を持ちかけることも多いでしょう。
しかし、相手方が協議に応じる意思がなさそうな場合は、特に、早期に内容証明による書面で、遺留分侵害額請求権を行使する意思をしっかりと表示しておく必要があります。
理由としては、遺留分侵害額請求権が時効によって行使できなくかることを回避する必要があるからです。
遺留分侵害額請求権は、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた法律上の権利ですが、未来永劫行使できるわけではなく、一定の期間内に請求しない場合は、消滅時効にかかってしまいます。
消滅時効期間は、遺留分の権利者が、相続が発生したことと遺留分が侵害されたことの事実を知ってから1年間となります。
この消滅時効の対象は形成権としての遺留分侵害額請求権そのもの、すなわち、遺留分侵害額請求の意思表示をすることができる権利であり、遺留分侵害額請求の意思表示をした結果として生じる金銭給付請求権自体は1048条前段の期間制限に服さないため注意が必要です。
この形成権によって発生した金銭債権については、通常の金銭債権と同様に消滅時効にかかることとなり、債権法改正の施行前においては10年間(債権法改正前民法167条1項)、その施行後においては5年間の消滅時効にかかることになります(民法166条1項1号)。
遺留分侵害額請求にあたっては、配達証明付き内容証明郵便を使って書面で遺留分侵害額請求書を作成して相手方に送りましょう。こうすることにより、郵便局や差出人の手元に、送付内容や日付の控えが残り、時効完成前のタイミングで遺留分侵害額請求を行っていることを証明することができます。
なお、除斥期間といって、被相続人の相続開始から10年経過すると遺留分侵害額請求の行使はできなくなるので、この点についても注意しましょう。
遺留分侵害額請求調停を申し立てる
当事者同士の話し合いで折り合いがつかない場合、家庭裁判所に対して遺留分侵害額請求調停を申し立てましょう。
調停では、裁判官と2名の調停委員が構成する調停委員会が、中立の立場で、遺留分請求者と遺留分侵害者との間にたって、話し合いがスムーズに進むように仲介をします。
調停の特色として、調停はあくまでも当事者の話し合いの延長となるので、当事者は自分の意向に沿わない場合は調停委員会のすすめに応じる法的義務はありません。
そのため、調停でも双方の合意に至らない場合は、調停は不成立となって手続きは終了します。
しかしながら、事実上の効果として、第三者の調停委員が専門的かつ客観的な視点でアドバイスや説明をしてくれることにより、遺留分の返還を法的根拠なく単に拒絶しているような相手方は、返還義務があることが明らかな場合は諦めて納得してくれることも期待できます。
なお、調停で合意が成立した場合は、家庭裁判所により合意内容を書面にした調停調書が作成されます。調停調書は判決と同様強制力があるため、その後、相手方が合意内容に反して遺留分の返還を渋ったとしても、強制執行をかけることにより回収することができます。
調停調書で合意すべき事項として、遺留分の額、どのような形(金銭で返すのか、不動産や動産などの現物を分けるのか)、いつまでにどのような形で支払うのかなどの条件があります。
民事訴訟を提起する
遺留分侵害額調停でも合意ができなかった場合は、最終的には民事訴訟を提起するということになります。
遺留分侵害額請求は、親族間での遺産の配分という人事的要素が強い事件ですので、調停前置主義といって、まずは調停を申し立て、それが不成立にならない限りは民事訴訟を提起することはできません。
なお、調停が家庭裁判所に申し立てをすることに対して、民事訴訟は地方裁判所に、または、請求する金額が140万円以下の場合、簡易裁判所に対して訴えを提起する必要があります。遺留分侵害額請求訴訟を提起した場合は、通常の訴訟と同様、三審制となりますので、地方(簡易)裁判所の判決に不服がある場合は、控訴・上告をしていくこととなります。
なお、訴訟で遺留分侵害額請求が認められたものの、相続財産に現金等が少なく、不動産を共有状態で現物分割をすることとなった場合、その不動産の共有状態を解消して処分等をするためには、別途共有物分割訴訟が必要となります。
最後に
いかがでしたでしょうか。
遺留分侵害額請求を無視されてしまった場合の対応方法についてご説明しました。
まずは、配達記録付き内容証明で請求の意思を表示し、消滅時効により権利行使ができなくなってしまうことを避けましょう。
また、当事者間の話し合いが整わない場合は、調停、民事訴訟という順で紛争解決をはかっていくこととなります。遺留分侵害額請求で相手方と話がこじれそうな場合には、早期に相続問題に詳しい弁護士等に相談し、サポートを受けることがおすすめです。