遺産分割審判とは?手続きの概要や利用するメリットを解説

弁護士 関口 久美子 (せきぐち くみこ)
弁護士法人宇都宮東法律事務所 代表社員(パートナー弁護士)
所属 / 栃木県弁護士会 (登録番号43125)
保有資格 / 弁護士

遺産分割協議が整わなかった場合、裁判所での遺産分割審判という紛争解決制度を利用することができます。遺産分割審判とはどのような制度なのでしょうか。

また、相続人等の方々にとって、遺産分割審判を利用するメリットにはどのようなものがあるでしょうか。

 遺産分割審判とは

遺産分割審判とは、遺産分割について裁判官が審判を行い、法的な強制力をもって遺産の分割方法を判断、決定する手続きのことをいいます。

被相続人が亡くなり相続が発生すると、まずは相続人同士が当事者間で話し合いにより遺産の分け方を相談する遺産分割協議を行います。

ところで、この遺産分割協議には、相続人全員が参加する必要があり、また協議の結果合意が成立しなければ遺産を処分することができません。

そのため、遺産分割協議で、例えば遺留分や寄与分などで揉めるなどして最終的に合意に至ることができなかったり、相続人の誰かの協力が得られず協議に参加しなかったりした場合、裁判所を介した紛争解決処理を図る必要があります。

調停と審判の違い

裁判所での紛争解決処理手段には遺産分割調停と遺産分割審判があります。

遺産分割調停では、裁判所から選任された調停委員と裁判官が、交互に当事者の主張をきき、それを整理して他の当事者に伝えるなどして、遺産分割協議が円滑に進むようサポートをしてくれます。遺産分割調停で合意が成立した場合、その内容は調停調書となり法的拘束力をもつこととなります。

しかし、遺産分割調停はあくまで当事者間の話し合いの延長になりますので、調停委員や裁判官は基本的には当事者に対して遺産分割案を強制することはできません。

そのため、調停で合意に至らなかった場合は、調停不成立ということとなってしまい、紛争の解決とはなりません。

一方、遺産分割審判では、裁判官が当事者の主張を聞いたうえで、裁判所での職権調査や証拠の確認も実施し、確定的に判断を行います。審判の結果は法的な拘束力があるので、当事者はこれに従う必要があります。

そのため、審判手続によって、遺産分割問題の最終的な解決をはかることができます。

裁判と審判の違い

ところで、裁判所での紛争解決処理というと、いわゆる民事訴訟を思い浮かべる方が多いかと思います。

しかし、遺産分割問題については裁判ではなく審判によるものと定められています。民事訴訟では、裁判所は、当事者が提出した主張と証拠に基づいて判決を出します。

一方、遺産分割審判では、家庭裁判所が職権で事実調査と必要に応じて証拠調べを行います。遺産分割のような家族間の紛争については、当事者が主張していない事項であっても裁判所の調査を認めて、柔軟かつ妥当な結論を導ける審判のほうが適していると考えられているためです。

遺産分割審判で決められること

遺産分割審判では、遺産分割の内容のみが審理対象となります。

そのため、遺産をどのように分割するか、特定の相続人の寄与分や特別受益の認定などは審理対象となります。

一方、遺産に関係がある紛争であっても、遺言書の無効を確認したり、遺産の範囲に争いがある場合や他の相続人について相続権がないことを確認したりするような場合は、通常の民事訴訟で解決することとなります。

遺産分割審判の手続き

遺産分割調停で不成立だった場合、遺産分割審判に移行します。調停をせずにいきなり審判を申し立てることも制度上は可能ですが、まずは話し合いをさせるために裁判所の判断で調停とされることも多いため、一般的にはまずは調停を申し立てることが多いです。

遺産分割審判の当事者は、調停の当事者と同様、相続人全員がなります。もし仮に調停の段階で欠席を続けた当事者がいた場合でも審判へと移行できますので、相続人の中に非協力的な当事者がいる場合には、早急に審判移行を見据えて動くのがいいでしょう。

審判手続きでは、審判期日に当事者の双方が出席し、それぞれ主張や証拠の提出をすることとなります。調停期日では当事者は交互に呼ばれて話を聞かれる形式となりますが、審判は同じ法廷に両当事者が出席することとなります。

裁判所は当事者の主張や証拠を踏まえて、再度話し合いによる和解ができないか促すか、次回の期日を指定して裁判所が遺産分割の方法を定めていくか決めます。審判期日はだいたい1か月程度の間隔をあけて指定されることが多いです。

審理が進み、裁判所から審判が出された場合には、審判が終了します。審判には、認容の審判と却下の審判の2種類があります。申立が適法で遺産分割処分をすべきと認められた時には認容審判がなされ、分割条項が定められます。

一方、審判外で既に遺産分割が終了していたり遺産分割禁止の遺言等があったりした場合には、審判は却下されます。

審判の内容は、審判の結果が当事者に告知された日の翌日から2週間で確定します。仮に審判の結果に不服である場合は、この2週間中に、即時抗告という不服申し立てをする必要があります。

即時抗告がされた場合、各上級裁判所で審理がしなおしがなされ、家庭裁判所にもう一度審理を命じるかまたは当該上級裁判所が審判を取り消して自ら審判に代わる裁判をするということとなります。

遺産分割審判が確定すると、法務局で遺産に含まれる不動産についての登記名義の変更を行ったり、故人の預金口座の解約や引き出しなどを行ったり、遺産の処分をすることが可能になります。

審判の終了の仕方としてもうひとつ、当事者が申立の取り下げをした場合があります。審判が確定する前であれば当事者は取り下げができますので、審判をしている最中に遺産分割について合意がされた場合などは申立取り下げにより終了することもあります。

遺産分割審判のメリット

上述のように、審判がでると審判書には法的拘束力があります。

そのため、相続人間で折り合いがつかない紛争であっても、裁判所に判断してもらうことにより、遺産分割問題を終結的に解決することができます。

審判は債務名義となりますので、他の相続人が審判通りに遺産分割を実行してくれなかった場合には、強制執行をすることもできます。

また、裁判所が職権で事実調査や証拠調べをしてくれるので、公平な判断が期待できるというメリットもあります。

最後に

いかがでしたでしょうか。

遺産相続審判の手続き概要や利用するメリットなどについてご説明しました。ご参考になれば幸いです。

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