遺産の使い込みに対する不当利得返還請求の時効は?

代表弁護士 関口 久美子 (せきぐち くみこ)
弁護士法人宇都宮東法律事務所 代表社員(パートナー弁護士)
所属 / 栃木県弁護士会 (登録番号43125)
保有資格 / 弁護士

複数の相続人がいる場合で、特定の相続人が他の相続人に無断で、権限なく遺産を使い込んでしまった場合、使い込まれた側の相続人は、使い込んだ相続人に対して、不当利得返還請求によりお金を返してもらうことができます。

しかし、この不当利得返還請求は、無期限にできるわけではなく、一定の年数がたつと消滅時効が完成して、もはや請求できなくなる可能性があります。

この記事では、遺産の使い込みに対する不当利得返還請求の時効についてご説明します。

遺産の使い込みは不当利得返還請求の対象となりうる

遺産の使い込みは、不当利得返還請求の対象となります。

それでは、そもそも遺産の使い込みとはどういった事態のことをいい、不当利得返還請求とはどのような請求なのでしょうか。

遺産の使い込みとは

今回お話をする遺産の使い込みとは、被相続人の死後に遺産を使い込んだ場合をいいます。これは被相続人の生前の財産の使い込みとは区別して考える必要があります。

被相続人が亡くなり相続が発生すると、被相続財産は相続人全員の共有となります。民法の共有の定めにより、遺産分割手続により相続が完成するまで、共有者である他の相続人の承諾なく、相続財産を処分することはできません。

そのため、例えば、被相続人と同居していた特定の相続人が、他の相続人に無断で、自宅で保管していた被相続人の現金を私用で使ったり、不動産や財産を売却したり、賃料収入を全額受け取り消費したりすることは、被相続人の死後における遺産の使い込みに該当します。

一方、被相続人が認知症などで判断能力が衰えているような場合に、被相続人名義の預金から推定相続人が勝手にお金を引き出して自分のために費消した場合は生前の財産の使い込みにあたります。被相続人が認知症の場合、同居の推定相続人等による使い込みのリスクは常に存在するといえます。

不当利得返還請求とは

不当利得返還請求とは、民法703条の定めに基づく請求です。

具体的には、ある人が法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を得てそのために他人に損失を及ぼした場合、損失を受けた人は、利益を得た人に対してその利益の返還を請求することできます。

遺産の使い込みにおいても、ある相続人が権限なく遺産を使い込んだ場合、本来遺産を相続できるはずだった相続人は、使い込んだ相続人に対して不当利得返還請求をすることができます。

ただし、不当利得返還請求をするためには、相手方が利益を得たことについて法律上の理由がないことが必要です。

そのため、相手方が、被相続人と合意のうえ、譲渡や売却を受けて被相続財産を処分した場合は不当利得返還請求をすることはできません。

なお、遺産の使い込みにおける被害者は法定相続分を有する相続人となりますが、被相続人の生前に同居の推定相続人が財産を使い込んでしまった場合の被害者はあくまでも被相続人であり、被相続人の死後に生前の引き出しについて不当利得返還請求をする場合には被相続人の有していた不当利得返還請求権を相続人が法定相続分で相続するという法的構成になります。

取り戻すことができる遺産の範囲

不当利得返還請求をすることで取り戻すことができる遺産の額は、請求する相続人の法定相続分が上限となります。

そのため、他の相続人に無断で使い込まれた遺産が3,000万円であったとしても、不当利得返還請求をする人の法定相続分が1,000万円の場合、取り戻すことができる遺産は1,000万円となります。

また、不当利得返還請求によって取り戻せる範囲は、遺産の使い込みをした人が、遺産の使い込みをしたことを知っていたか否かによって異なります。遺産の使い込みによって利益を得ていることを知ったうえで使い込んでいた場合は、使い込んだ利益に利息を付して返還してもらうことができます。

また、不当利得返還請求でもカバーできない損害が発生している場合は、別途不法行為として損害賠償請求をすることもできます。不当利得返還請求が認められた場合、被相続人の死亡後に使い込まれた遺産については、当初の遺産分割の対象に戻したうえで、使い込みがされる前の金額を被相続財産として遺産分割を行うこととなります(改正民法906条の2)。

不当利得返還請求の方法

まず、使い込みの事実を立証する証拠を揃えます。相続人であれば被相続人名義の金融機関の取引履歴を開示してもらうことができますので、使い込みを行った相続人による引き出しの履歴などの証拠を取得します。

その他、カルテや介護履歴など、遺産の使い込みの時点で、被相続人が認知症などであったことの証明なども必要に応じて揃えます。証拠が揃ったら、使い込みをした相続人に対し、まずは話し合いにより不当利得を返還するよう説得しましょう。

説得に応じた場合は、合意書などの法的書類を作成します。使い込みを行った相続人が、説得に応じない場合は、不当利得返還請求訴訟という民事訴訟を提起することとなります。

不当利得返還請求の時効は?

不当利得返還請求権は、一定期間行使しないと時効により消滅します。

具体的には、請求できることを知ったとき(遺産が使い込まれていることを知った時)から5年間または請求できるとき(遺産の使い込みがあったとき)から10年間のいずれか早いタイミングまでに不当利得返還請求権を行使しないと、消滅時効が成立し、使い込まれた遺産を取り戻すことができなくなります。

不当利得返還請求の時効は、2020年4月1日の民法改正前は、請求権が発生したときから10年となっていました。

しかし、民法改正により、請求できることを知ってから5年という早期に時効消滅する場合も追加されたため、注意が必要です。

遺産の使い込みの場合、他の相続人が相続時にはそれに気が付かず遺産分割がなされたものの、事後的に何らかの理由により使い込みが発覚することがあります。発覚した時点で時効成立が間近となっている場合、急いで時効の進行を止める必要があります。

具体的には、民事訴訟を提起するか、まず内容証明郵便で請求したうえで6ヶ月間以内に民事訴訟を提起すれば時効の完成をとめることができます。

時間がたったあとの使い込みの立証には資料集めなどにも時間がかかる可能性もありますので、このような場合には相続問題に詳しい弁護士に早めに相談することをおすすめします。

最後に

いかがでしたでしょうか。

遺産の使い込みを取り戻す方法である不当利得返還請求権の概要、時効や時効の完成を止める方法などについてご説明しました。ご参考になれば幸いです。

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