遺産の使い込みを疑われた場合の適切な対処法

代表弁護士 関口 久美子 (せきぐち くみこ)
弁護士法人宇都宮東法律事務所 代表社員(パートナー弁護士)
所属 / 栃木県弁護士会 (登録番号43125)
保有資格 / 弁護士

相続が発生したときによく発生する相続人間のトラブルとして、被相続人と同居していた相続人の一人が遺産を使い込んだのではないかと他の相続人から指摘がされることがあります。

遺産の使い込みに身に覚えがないのにもかかわらず疑われてしまった場合には、どのように対処すればよいでしょうか。

遺産の使い込みとは

遺産の使い込みとは、相続人の一人が被相続人の財産である預貯金をおろしたり財産を勝手に売却したりして得たお金を、無断で自分のために使ってしまうような場合をいいます。

使い込みがあった場合には、相続財産が減少するので、他の相続人からすると、本来の相続分よりも少なくしか遺産が受け取ることができないためトラブルになります。

遺産の使い込みがあった場合、使い込みをした人は、他の相続人から訴訟を提起されて不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求を受けることもありえます。

遺産の使い込みをされた場合の適切な対処法

相手方の主張をよく吟味して慎重に回答する

他の法定相続人から直接、またはその代理人の弁護士から、相続財産が使い込まれている疑いがあるので、お金の使用用途について説明を求められたら、感情的にならず相手の主張内容をよく吟味しましょう。

上述したように、こじらせると訴訟を提起され法的な請求を受ける場合がありますので、仮に身に覚えはないとしても放置はせずに、対応方針を慎重に検討しましょう。

相手方がきちんと説明をすれば納得をするような友好的な態度ではない場合には、早期から弁護士に相談することもおすすめです。

また、十分に検討せずに適当な回答をしてしまった場合で、あとからそれを撤回するような主張をすると、相手方や裁判所から信頼を失い、不利な結果につながることもありますので注意しましょう。

反論の内容を検討する

使い込みを疑っている他の相続人としては、被相続人の財産を無断で処分したことを主張するために、具体的には、証拠として被相続人の預貯金口座の取引履歴等を金融機関から取得して、不明な出金があったこと等を指摘してくると思われます。

また、被相続人の介護記録や病院のカルテなどを提出し、被相続人の判断能力は認知症などにより衰えていたので、仮に引き出しに同意していたとしても無効であるというような主張をしてくる可能性もあります。

使い込みを疑われている側としては、相手方の具体的な主張や証拠を確認して、事実と違うところについて、できるだけ証拠を示しつつ反論をしていくこととなります。

依頼者の意向と選択

考えられる反論

使い込みを疑われた側として考えられる主な反論のパターンについて、預貯金の引き出しが疑われている場合を例にとって、以下ご説明します。

預貯金の引き出しにはかかわっていない旨の主張

預貯金の引き出しは被相続人本人が行っており、疑われている相続人自身は関知していない場合はその旨を主張します。

例えば、金融機関の窓口で払戻しがされている場合は、金融機関に提出した払戻請求書の筆跡が被相続人のものであれば、被相続人本人が引き出していることの証拠となります。

ATMでカード等を使って引き出しをしている場合、直接的な証拠を出すのは難しいですが、例えば引き出された時期と近接した時期に、自分の口座に入金もなく、引き出し金を使用した形跡もないということは、間接的な証拠にはなります。

預貯金を引き出したが、被相続人に依頼されてのことである旨の主張

被相続人が高齢で金融機関に足を運ぶのが大変というような場合に、同居の子供等にお金の引き出しを依頼することは珍しいことではありません。本人の依頼により引出しを行っているのであれば、その引き出しには問題はありません。

もっとも、被相続人の心身の健康状態によっては、有効な依頼ではなかったというような反論がされうるので、被相続人が健康であったこと、具体的な依頼理由や状況を具体的に説明することなどにより、再反論をしていくことが大切です。

この時には依頼されたことを書面等の客観的資料が裏付けとして残っていると身を守ることにつながりますので、生前の財産管理契約等を締結し書面化しておくことをお勧めします。

被相続人の生活や介護の必要費用として引き出した旨の主張

被相続人と同居して生活や介護の面倒をみていた場合、被相続人の衣食住などの生活費や医療費等のために預貯金を引き出すことがあります。領収証や家計簿など具体的な使用用途を証明できるものがあれば、それも提出しましょう。

また、金額や引き出す頻度によっても違いはあります。

例えば、月に1~2回、被相続人の生前の生活レベルから考えて合理的な金額が引き出されている場合は、この主張は納得感をもって受け入れられやすいでしょう。

大阪高判平成27年7月9日判決では「それが社会通念に照らし相当と認められる額にとどまるものである限り領収書などの資料がなかったとしても経費として発生したものと推認すべきである」と示されているので、1円単位まで領収証で証明できなくても問題ないといえるでしょう。

被相続人から贈与された旨の主張

預金から引き出したお金が、被相続人から贈与された場合は、それを主張することになります。親子間など近しい親族間の贈与は、贈与契約書を締結することはあまりないかもしれませんが、被相続人のメールや日記、メモなどで贈与をうかがわせるものがあれば提出しましょう。

また、親から子に対する住宅の購入援助等、贈与に具体的で合理的な理由があれば納得が得やすいでしょう。

そしてこの場合にも贈与契約などの裏付け資料をしっかりと残しておくことが身を守ることにもつながりますので事前に弁護士などの専門家に相談し、書面化しておくといいでしょう。

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使い込みを疑われないための予防策

これまで使い込みを疑われた場合の対応策についてご説明してきましたが、使い込みが疑われて遺産分割が紛糾する事態はなるべく事前に防ぎたいものです。

事前の予防策としては、被相続人の生前に、体力の衰えや認知能力の衰えに備える目的で、財産管理等委任契約や任意後見契約を結んでおいて、預金を引き出す権限を証明できるようにしておくことが考えられます。

最後に

いかがでしたでしょうか。

他の相続人から遺産の使い込みを疑われた場合にどのように対処するべきかについてご説明しました。ご参考になれば幸いです。

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