遺産が使い込まれている疑いがあるときの調査方法とは
相続は別名「争族」といわれるほど、相続人同士のトラブルが生じやすい事項ではありますが、中でも相続人の一部が、被相続人の相続財産を使い込んでいるというトラブルもままあります。
遺産が使い込まれると、その他の相続人が相続できるはずの遺産が減ってしまうので、大きな問題となります。
この記事では、他の相続人が遺産を使い込んでいる疑いがある場合に、事実を調査する方法についてご説明します。
遺産の使い込みとは
遺産の使い込みとは、推定相続人となる人が被相続人の生前に権限なく自分のために相続財産となるべき財産を使ってしまっているような事態のことを指します。
離れて暮らしていたご家族について相続が発生したときに、被相続人と同居していた他の相続人が、生前遺産の使い込みをしていたことが判明することは珍しくありません。
遺産の使い込みでよくみられるケース
預貯金の使い込み
被相続人が高齢のため、同居の子供に通帳や印鑑の管理を任せているような場合に、子供が無断で預貯金を引き出したり、自分の口座に送金したりして使い込むケースがあります。
また、いわゆるタンス預金のような形で自宅においておいた介護のためのお金を、別の用途に使ってしまうこともあります。
収入の横領
例えば、被相続人がマンションを第三者に貸して賃料収入を得ている場合に、相続人の1人が賃料管理をするという名目のもと、振り込まれた賃料を使い込むケースもあります。
また、株式の配当等についても同様のことが考えられます。被相続人の財産を無断で売却して換金するケースもあります。
例えば、被相続人が所有している不動産を、実印などを持ち出して代理権があるようなふりをして、勝手に売却するようなこともあります。
遺産の使い込みを調査するためには
遺産の使い込みを取り戻すためには、まずは事実調査と証拠を確保することが必要です。無断で遺産を使い込んでいた他の相続人と、その他の相続人とは、遺産分割協議において鋭く利害が対立する立場にあることが通常です。
そのため、証拠がなく使い込みを追及したとしても、否定されてしまうことが多いためです。
具体的な調査方法としては、相続人個人で調べる方法、弁護士に調査を依頼する方法、裁判所の手続きを利用する方法の3つがあります。
相続人個人で調べる方法
まず、使い込みの事実を証明したい相続人の方が自ら調べる方法があります。費用をかけたくない、まずはできるところから調べたいと考える方には向いている方法といえるでしょう。
例えば、預貯金の使い込みについて調査をしたい場合、被相続人名義の預貯金口座がある金融機関に対して照会します。相続が発生すると遺産分割協議が終了するまで口座は凍結されますが、法定相続人であることを示せば(戸籍謄本など)、金融機関から、当該口座の過去の取引がわかる取引明細書の発行を受けることができます。
多くの金融機関では、過去10年分程度の取引明細を開示することができるようです。使い込みが疑われる期間の取引明細書を発行してもらうことにより、不審な引出しや送金を見つけることができます。
銀行のみならず、証券会社や生命保険会社の場合も同様に、相続人であることを示せば資料を発行してもらうことができます。
弁護士に調査を依頼する方法
使い込みの調査をしなければならない範囲が広い場合や、時間がなく金融機関をまわることが難しい場合、弁護士に調査を依頼する方法もあります。
弁護士に依頼するメリットとしては、ひとつには弁護士会照会制度(弁護士法第23条の2)に基づく法律上の制度を利用して調査ができることです。弁護士照会を利用することで、各金融機関から預貯金の取引明細書等の資料を効率よく取り寄せることが可能です。
また、相続問題に詳しい弁護士であれば、経験則から収集した資料のどこをどのようにみればよいか等をよく理解していますので、的確な分析が期待できます。その他、遺産の使い込みが証明されて、相手方との交渉や法的手段にうったえるときに、そのまま代理をしてもらうことができるため、スムーズです。
ただし、23条照会は1照会にあたり、3000円程度費用がかかりますので(枚数が多い場合には別途照会先の金融機関に対して費用を支払う必要がある場合もあります)注意が必要です。
裁判所の手続きを利用する方法
最後に、裁判所の手続きを利用する方法があります。公平中立な立場である裁判所の手続きを利用するメリットは、調査可能な範囲が広いことです。
先に述べた相続人が個人で調査をする方法でも、弁護士に依頼する方法でも、調査可能な範囲は、被相続人の方ご本人名義の口座だけになります。
網羅的に調査をするためには、使い込みが疑われている他の相続人名義の口座の取引履歴も調べる必要があります。相続人口座への入金と被相続人口座からの引き出しの対比をすることで時間的に近接した時点で同程度の金額の引き出しと入金が確認されれば、使い込みの1つの根拠となり得るからです。
ところが、金融機関は、口座名義人のプライバシーにも配慮する必要があるため、使い込みが疑われている相続人の口座については、一個人である他の相続人やその代理人である弁護士が開示請求をしても、応じないことがほとんどです。
この点、使い込みが疑われている他の相続人に対して民事訴訟(不当利得返還請求や損害賠償請求)を提起して、その訴訟手続きの中で裁判所に調査嘱託等の申し立てを行うことにより、裁判所が職権調査を行うこととなれば、金融機関も開示に応じることが想定されます。
ただし、訴訟を起こすためにはある程度使い込みの事実を疎明しておく必要があるので、まずは相続人個人や弁護士照会によりおおよその調査と証拠を集めて置き、最終的に訴訟の中で収集できなかった資料につき、裁判所の手続きを利用して資料収集することが現実的であるといえるでしょう。
調査で収集しておきたい証拠
上記の調査で集められる、使い込みを証明するための証拠にはどのようなものがあるでしょうか。
まずは、上述の被相続人名義の預貯金口座の取引履歴が重要な証拠になります。
また、被相続人が高齢で介護を受けていた場合で、認知症が疑われる場合には、介護認定記録や医療機関のカルテも重要な証拠となることがあります。判断能力がなかったことを証明することにより、使い込みをした相続人から、自分の意思でお金の引き出しをしたのであって使い込みではないというような反論を封じることができる可能性があるためです。
その他、被相続人口座から引き出された際の窓口伝票についても、本人が自筆で記載したものなのか、他人が委任状ないし代筆で記載して作成されたものなのか等を把握することで、使い込みの立証手段になることがあります。
最後に
いかがでしたでしょうか。
遺産の使い込みが疑われる場合にできる調査方法や収集したい証拠についてご参考になれば幸いです。